東京地方裁判所 平成8年(行ウ)31号 判決 1997年2月04日
原告 後藤雄一
被告 東京都知事
主文
一 被告が原告に対して平成七年一二月六日付け七財主議第五六二号でした公文書一部開示決定の非開示部分(ただし、債権者の印影に係る部分を除く。)及び平成八年一月一二日付け七情報報第五一号でした公文書一部開示決定の非開示部分(ただし、単価及び支給額の欄を除く。)を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
主文同旨
第二事案の概要等
一 事案の概要
本件は、原告が、東京都公文書の開示等に関する条例(昭和五九年条例第一〇九号、以下「条例」という。)に基づき、東京都(以下「都」という。)の執行機関が開催した都議会議員との会議の際の飲食費等の支出に関する公文書及び超過勤務等命令簿の開示を求めたところ、被告がそれぞれその一部を非開示とする決定(以下「本件各決定」という。)をしたことから、右各決定には条例の解釈適用を誤った違法があるとして、前記請求の限度でその取消しを求めている事案である。
二 条例の規定
条例一条は、条例の目的が、公文書の開示を請求する都民の権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定め、都民と都政との信頼関係を強化することなどにある旨を、条例三条は、実施機関は、条例の解釈及び運用に当たっては、公文書の開示を請求する都民の権利を十分に尊重するとともに、個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配慮をしなければならない旨を規定している。また、条例九条は、実施機関が開示をしないことのできる情報(以下「非開示情報」という。)を列挙し、同条二号本文は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人が識別され得るもの」(以下「二号個人情報」と略称する。)を、同条四号は、「開示することにより、人の生命、身体、財産又は社会的な地位の保護、犯罪の予防、犯罪の捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障が生ずるおそれがある情報」(以下「四号公安秩序情報」と略称する。)を、同条七号は、「都又は国等の事務事業に係る意思形成過程において、都の機関内部若しくは機関相互間又は都と国等との間における審議、協議、調査、試験研究等に関し、実施機関が作成し、又は取得した情報であって、開示することにより、当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずると認められるもの」(以下「七号意思形成情報」と略称する。)を、同条八号は「監査、検査、・・渉外、争訟、交渉の方針・・その他実施機関が行う事務事業に関する情報であって、開示することにより、・・関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの又は都の行政の公正若しくは円滑な運営に著しい支障が生ずることが明らかなもの」(以下「八号事務事業情報」と略称する。)を、それぞれ非開示情報として規定している。さらに、条例一〇条は、非開示情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合において、両者が容易に分離することができ、かつ、分離により開示の請求の趣旨が損なわれることがないと認められるときは、非開示情報に係る部分を除いて、公文書の開示をすべき旨を規定している。
三 当事者間に争いのない事実等(書証により認定した事実については、適宜書証を掲記する。)
1 原告は、平成七年一一月二二日、条例に基づいて、都財務局主計部議案課の作成、取得に係る文書番号五財主議第三号、六財主議第二号、同第四号、同第五号、同第六号、同第八一号、同第八三号及び同第五〇一号の各公文書(以下「本件議案課文書」と総称し、各文書は「三号議案課文書」のように末尾番号を付して表記する。)の開示を請求した。
2 本件議案課文書は、別紙一のとおり、都の執行機関の幹部と都議会議員との間で開催された合計一一回の会議(以下「本件各会議」という。)の際の飲食費等の支出に関する公文書であって、財務局主計部議案課の起案に係る起案文書及び所要経費見積書、債権者の請書、支出命令書、請求書、支払金口座振替依頼書及び領収書(一部)からなるものである(乙三号証の一ないし八)。
3 被告は、平成七年一二月六日付けで、条例九条二号、四号、七号及び八号に該当することを理由に、本件議案課文書に記載された情報のうち、起案文書の件名欄記載の会議の名称及び開催目的の一部、相手方及び都側出席者の人数以外の記載、その余の文書における債権者の表示(請書及び請求書についてはその印影が存在するものと推認される。)、支払金口座振替依頼書の振込先の記載及び振込依頼者の記載並びに領収書の受領者の記載(乙三号証の一ないし八)を非開示とし、その余を開示する旨の決定(以下「本件第一決定」という。)をした。
なお、原告は、本訴においては右非開示部分のうち債権者の印影の開示を請求していない。
4 原告は、平成七年一二月二〇日、条例に基づいて、都情報連絡室報道部総務課、同部報道課(以下「報道課」という。)及び同室事業課の平成六年度の超過勤務等命令簿の開示を請求した。なお、原告は、平成八年一月一六日、右開示請求のうち、報道課八月分を除く部分を取り下げる旨の取下書を提出した(報道課の平成六年八月分の超過勤務等命令簿を以下「本件超過勤務等命令簿」という。)。
5 本件超過勤務等命令簿は、報道課長が報道課職員一一名に対して超過勤務命令を発し、当該命令を受けた職員が実施した平成六年八月における超過勤務の結果が職員別に記載された公文書であり、所属、職、職員氏名、勤務月日、勤務時間、勤務内容、命令権者印、従事職員確認印、係長確認印、勤務時間の月間計、一時間当たりの支給単価、支給額等の情報が記載されたものである(乙六号証の一ないし一一、一九号証、二〇号証)。
6 被告は、平成八年一月一二日付けで、条例九条二号に該当することを理由に、本件超過勤務等命令簿のうち、職員氏名、勤務内容、従事職員確認印、係長確認印、「単価支給額・月間計」を非開示とし、その余を開示する旨の決定(以下「本件第二決定」という。)をした。なお、右「単価支給額・月間計」とは、本件超過勤務等命令簿の「月間計」欄の「単価」欄に記載されている単価及び「支給額」欄に記載されている支給額を指す。
なお、原告は、本訴においては右非開示部分のうち単価欄及び支給額欄の開示を請求をしていない。
四 争点
本件の争点は、本件各決定によって非開示とされた情報(以下「本件非開示情報」という。ただし、原告が非開示を争わない部分を除く。)が条例の規定する非開示情報に該当するかどうかであり、これに対する当事者双方の主張の要旨は、以下のとおりである。
1 本件議案課文書について
(一) 被告の主張
本件各会議は、都の執行機関の幹部と都議会議員との間において忌憚のない意見を交換することによって、相互の信頼関係の醸成と都政に関する重要課題についての意思疎通を図ることを目的として開催されたものであるところ、本件各会議が開催された際の状況及び会議内容等は、別紙二のとおりであって、いずれの会議も、都議会各会派の意見が分かれ、都としてもその対応に苦慮するような臨海副都心開発問題等の重要課題について、別紙二に記載の状況下において意見交換がされているから、当該会議の内容のみならず、会議を開催したこと自体を内密にする必要がある。そして、以下のとおり、会議等の名称、開催目的は二号個人情報、七号意思形成情報、八号事務事業情報に、相手方及び都側出席者の人数以外の記載は二号個人情報に、債権者名(開催場所)は二号個人情報、四号公安秩序情報及び八号事務事業情報にそれぞれ該当するから、これを非開示としたことに違法はない。
(1) 会議等の名称及び開催の目的
会議等の名称及び開催の目的を開示すると、既に開示されている実施年月日、支出金額、支出内容及び出席者数の情報を組み合せることによって、本件各会議に出席した都議会議員が識別される可能性が高いから、右情報は二号個人情報に該当する。
また、会議等の名称及び開催の目的を開示すると、本件各会議の内容について、関係行政機関や利害関係者のみならず都民に様々な憶測等を生じさせ、無用な誤解を与え、あるいは、混乱を惹起し、本件各会議の内容とされた重要課題に関わる各種の折衝が遅れるおそれがあるなど、都又は国等における行政内部の審議や協議ないし調査等を適正かつ効率的に行うことに支障をきたす場合が予想され、右重要課題に関する都又は国等の事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずるから、右情報は七号意思形成情報に該当する。
さらに、会議等の名称及び開催の目的を開示すると、既に開示されている情報を組み合せることによって、本件各会議における内々の情報交換の内容が推測されることになり、関係機関等に様々な憶測等を生じさせ、関係当事者間の信頼関係を損ない、右重要課題に関する事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあり、また、将来の事務事業の公正若しくは円滑な運営に支障を生ずるから、右情報は八号事務事業情報に該当する。
(2) 都の出席者
都の出席者について、本件議案課文書の各起案文書中には個人名を記載した部分はないが、個人名が特定できる役職名が「(役職名)外〇名」というような形で記載されており、これを明らかにすると、既に開示されている情報を前提に、当該都の役職者及び都議会議員の日程等を調査することによって、本件各会議に出席した都議会議員が識別される可能性が高いから、右情報は二号個人情報に該当する。
(3) 相手方
相手方である都議会議員についても、右(2)と同様に、個人名の記載はないが、個人名が特定できる役職名が記載されているから、二号個人情報に該当する。
(4) 開催場所及び債権者名
本件各会議の開催場所及び本件各会議の経費に係る債権者名について、これらを明らかにすると、既に開示されている情報に基づいて債権者等に対する問合せや取材をすることによって、本件各会議に出席した都議会議員が識別される可能性が高いから、右情報は二号個人情報に該当する。ことに、認識度の高い当時の鈴木知事が出席した会議については、開催場所の経営者、従業員等が会議の開催の事実、会議の内容及び相手方を記憶している可能性が高く、これらの者に対して問合せや取材をすることによって、出席した都議会議員が識別される可能性がより高いと考えられる。なお、贈呈品に係る債権者名を開示すると、贈呈品の届け先を開催場所としていたことから、その債権者に対して問合せや取材をすることによって開催場所が特定され、右と同様の事態を招くことから、右情報も二号個人情報に該当することになる。
また、内密の会議を開催するに相応しい場所は、ある程度限定されるし、契約手続の面等からも継続的、反復的な利用となりがちであること等の理由から、会議の開催後においても、会議の開催場所、債権者名を開示すれば、警護対象者とされている都知事の警護体制に問題を生じ、将来の会議の出席者や開催場所の関係者等の生命、身体、財産の保護にも支障が生ずることになるから、右情報は四号公安秩序情報に該当する。
さらに、債権者名を開示すると、右のとおり債権者に対して頻繁な問合せ等が行われて、本件各会議に出席した都議会議員が識別される可能性が高く、その可能性自体により、出席した都議会議員との信頼関係が損なわれるから、右情報は八号事務事業情報に該当する。
(二) 原告の主張
(1) 本件各会議の実態は、定例会の終了後に議長及び副議長又は都議会各派の議員を招いて開催した慰労会、定例会の開会前に都議会各派の議員を招いて開催した根回し会であって、いずれも内密の協議を目的として開催した会議ではない。当該会議において、賛否の分かれる臨海副都心開発問題等の重要な課題が話題になるからといって、直ちに内密の協議を目的とする会議になるわけではないし、真に内密の協議をする必要があれば、都庁の会議室を利用するはずである。
(2) 都議会議員は、地方公務員特別職であり、議員の職務として本件各会議に出席したのであるから、その出席に関する情報は、職務上の情報であって、個人情報に該当するものではない。
また、本件第一決定においては、債権者の印影が条例九条四号に該当するとされたのであって、都知事の警護体制への支障等を問題にしていなかったし、都知事が出席する式典等の情報は事前に開示されているのであるから、会議の開催場所を事後に開示することにより警護体制に支障等が生ずるということはない。
さらに、被告は、会議等の名称及び開催の目的を開示すると、会議の内容について関係者の間に様々の憶測を生じさせ、無用の誤解を与え、混乱を惹起すると主張するが、極めて抽象的な主張であるし、本件議案課文書には会議の内容そのものが記載されているわけではないから、開示したとしても、右のような事態が生ずるとは考えられず、また、当事者間の信頼関係が損なわれると考えることもできない。都フロンティア推進本部も、本件各会議と同様の会議を行っているが、会議等の名称、開催の目的、都の出席者、相手方、開催場所、債権者名を開示しており、開示したことによって何らの支障も生じていない。
2 本件超過勤務等命令簿について
(一) 被告の主張
条例九条二号は、個人のプライバシーを最大限に保護するため、個人のプライバシーに関する情報であることが明らかに判別できる場合はもとより、個人のプライバシーに関する情報であると推認できる場合も含めて、個人に関する一切の情報は非開示とすることを原則としたものである。そして、個人情報とは、思想、心身の状況、病歴、職歴、成績、親族関係、所得、財産の状況その他一切の個人に関する情報を指すものである。
本件超過勤務等命令簿の内容は、個々の報道課職員の超過勤務に関する記録であることから、個人に関する情報であるところ、職員氏名及び従事職員認印は、これにより特定個人が直接識別できることになるし、また、勤務内容及び係長確認印は、既に開示されている勤務月日、勤務時間等を組み合せることにより、あるいは、これらに基づいて報道課に対して問合せ等をすることにより、当該超過勤務を行った特定個人を識別することが可能になるから、いずれも条例九条二号の個人情報に該当する。
(二) 原告の主張
職務上の情報については、たとえ職員の個人名が記載されていたとしても、個人情報には該当しないのであって、被告も、出張に関する情報については、職員の個人名を開示しているのであるから、本件超過勤務等命令簿についてのみ非開示とする理由はない。本件第二決定は、職員の「カラ残業、カラタクシー利用」を隠蔽するためにしたものである。
第三当裁判所の判断
一 本件各非開示事由について
1 二号個人情報について
条例において公文書の開示が都民の権利であるとされながら(一条)、二号個人情報が非開示とされる理由は、個人に関する情報がみだりに公にされることがないようにとの配慮に基づくものであると解される(三条参照)。
そして、プライバシーが個人の尊厳及び基本的人権の尊重という観点から保護されるべきことからすると、公文書の開示請求権に対してもプライバシーの保護が配慮されなければならないのである。しかし、いわゆるプライバシーの範囲については、確立した判断基準があるわけではなく、その情報の客観的内容、その個人のおかれた状況、開示される状況等によって異なるものであって、一律には決しがたいものである。そこで、情報公開事務の手引(甲六号証)に記載された東京都公文書の開示等に関する条例の施行について(昭和六〇年三月一日五九情情推第六〇号、以下「情報公開事務手引」という。)の記載をも考慮すると、条例九条二号は、個人に関する情報がいわゆるプライバシーに関するものであると明らかに判別することができる場合はもとより、右プライバシーに関するものと推認できる場合をも含めて、思想、心身の状況、病歴、学歴、職歴、成績、親族関係、所得、財産の状況のみならず、個人の活動に関する情報その他一切の個人に関する情報で特定個人が識別されるものを非開示情報としたものである。
したがって、形式的には個人に関する情報であっても、公表することにより社会通念上個人のプライバシーを侵害するおそれがなく個人のプライバシーに関するものと推認することができないと認められる情報については、同号にいう「個人に関する情報」には該当しないものと解される。このことは、個人に関する情報であって、公表されることによってなにがしかのプライバシーの侵害を生ずるおそれがあるとしても、既に公にされ、又は公にされることが予定されている同号イ及びロの情報については、開示が必要的とされていること、同号ロにいう「公表を目的とした情報」に「公にすることが慣行となっていて、公表しても社会通念上個人のプライバシーを侵害するおそれがないと認められる情報」が含まれるものと解されていること(情報公開事務手引)とも符合するものということができる。この点を公務員の作成にかかる行政文書についてみれば、その多くは当該事務に関する公務員の職、氏名及び職務行為に関する情報によって構成されていることになるから、右の立場と異なり、およそ個人に関する情報であれば、非開示事由に該当するとして、行政文書の開示を実施機関の裁量に委ねることは、都民と都政との信頼関係の強化を目的とする条例一条の趣旨、公文書の開示請求権と個人に関する情報の保護との調整を解釈指針とする条例三条の趣旨にも沿わないこととなるのである。
そして、社会通念上個人のプライバシーを侵害するおそれがないと認められる個人に関する情報としては、公務員の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の職及び氏名に関する情報の多く及び職務行為に関する情報のうち、その行為の内容、結果に当該公務員個人に固有の情報に関する部分がないもの、あるいは、既に公表されている情報等と同種、同性質と認められるものが含まれるものと解される。もっとも、条例九条二号の趣旨に照らせば、公務員の職、氏名又は職務行為に関する情報であっても、プライバシーの侵害のおそれがあるとき、又はプライバシーの侵害となるか否かが不明である場合には、これを二号個人情報に該当するものとして扱うべきこととなる。
また、同号にいう「特定の個人が識別され得るもの」とは、当該情報自体によって特定識別される場合のみならず、一般人が新聞等から通常入手することができる他の関連情報と照合することによって特定識別が可能となる場合を含むものと解すべきである。
2 四号公安秩序情報について
情報公開事務手引によれば、四号公安秩序情報は、開示することにより、犯罪の被疑者、参考人、情報提供者の生命、身体等の保護に支障が生じたり、犯罪の予防、犯罪の捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障が生ずるおそれがある場合に、これを防止するために非開示とされたものであり、「人の生命、身体、財産又は社会的地位の保護」に関する情報の中には、開示することにより特定の個人の行動予定、家屋の構造等が明らかにされ、その結果これらの人々が犯罪の被害者となるおそれがある情報が含まれ、「支障が生ずるおそれがある」とは、公共の安全と秩序の維持のための警察活動等が阻害され、若しくは適正に行われなくなり、又はその可能性がある場合をいうものとされている。
3 七号意思形成情報について
情報公開事務手引によれば、七号意思形成情報とは、都又は国等の事務事業に係る意思形成に支障が生ずると認められる情報であり、特定の事務事業について、当該事案に係る事案決定手続等が終了しても、当該事務事業についての最終的な意思決定が得られていない情報を開示すると、都民に無用の誤解を与え、又は無用の混乱を招くおそれがあり、また、行政内部の審議、協議、試験研究等を適正かつ効率的に行うことに支障が生ずると認められる場合に非開示とする趣旨であるとされている。
また、このような情報としては、審議中の案件又は正確性の確認を経ない資料等のほか「行政内部の会議、意見交換の記録等で、開示することにより、行政内部の自由な意見又は情報の交換が妨げられると認められる情報」が例示され、この例示に加えて、「その他開示することにより、当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずると認められる情報」が右情報に該当するものとされている。
そうすると、懇談会等の会議についても、それが単に事務事業に関連して儀礼的な慰労又は謝意を表明するためのものや関係者間の一般的信頼の醸成維持のみを目的としているものではなく、都又は国等の事務事業に係る意思形成過程における会議、意見交換であって、これに関する情報がその記録を含むか、あるいは会議、意見交換等の内容を推認させる情報であって、これを開示することにより、当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずると認められるときは、七号意思形成情報に該当するものということができる。なお、儀礼的な会議以外のものであっても、事業の遂行のために関係者との個別的事項についての内密の協議を目的とするものと一般的な事務打合せに止まるものを区別することができるのであって、個別的事項についての内密の協議を目的とするものについては、当該情報自体は懇談会の外形的事実に関するものであっても、これを公開した場合に、一般人が新聞等から通常入手することができる他の関連情報と照合することによって、懇談会の相手方、懇談の内容が明らかになるときは、会合の内容について様々な憶測がされることを危惧したり、自由率直な意見交換が妨げられるという事態が想定されるから、当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に支障が生ずるおそれがあることを否定することはできないものというべきであるが、一般的な事務打合せに止まるものについては、通常、右の支障を生ずるおそれはないというべきである。
4 八号事務事業情報について
情報公開事務手引によれば、八号事務事業情報とは、事務事業の内容及び性質に着目し、開示することにより、公正又は円滑な事務事業の執行を妨げるおそれがあるものであり、このうち「渉外」とは、都と国等の都以外のものとの間で行われる儀礼、式典、交際等の対外的事務をいい、「交渉の方針」とは用地買収、損害賠償、労務交渉等の事務における相手方との話合い、折衝、相談等の方針をいうものとされ、「その他実施機関が行う事務事業に関する情報」とは、例示された各事務事業のほか、実施機関が行う一切の事務事業に関する情報をいうものとされている。
右によれば、例示された事務事業に該当しないものであっても、例示された事務事業と同様、当該事務事業の性質自体から通常公開を予定していないものであれば右事務事業情報に該当するものということができる。
したがって、都議会関係者を相手方とする懇親会等の会議についても、知事の合理的判断に委ねられた儀礼、式典、交際等又はこれに準ずるものに該当したり、あるいは事業遂行のために関係者との個別的事項についての内密の協議を目的とするものである場合においては、八号事務事業情報に該当する場合も考えられ、この場合には七号意思形成情報について説示したのと同様、当該情報が会議の外形的事実に関するものであっても、これを公開した場合に、一般人が新聞等から通常入手することができる他の関連情報と照合することによって、会議の相手方、会議の内容が明らかになるときは、会議の内容について様々な憶測がされ、当該事業の意見調整に混乱を生ずるという事態が想定されるから、当該事務事業又は将来の同種の事務事業の円滑な執行に支障が生ずるおそれがあることを否定することはできないものというべきである。
二 本件議案課文書について
1 本件各会議の性質について
(一) 本件各会議の性質について、被告は別紙二のとおり主張するが、提出した証拠以上にはその立証をしないとして判決を求めたので、既に提出された証拠の範囲内で検討することとする。
まず、乙三号証の一ないし八を検討すると、次の各事実を認めることができる。
(1) 本件各会議はいずれも、その支出命令書によれば、組織名を「財務局主計部議案課」とするものであって、予算科目は、一般会計における款・総務費、項・総務管理費、目・財務管理費、節・一般需要費とされ、事業名は管理事務とされている。
ところで、東京都組織条例(昭和三五年条例第六六号)によれば、東京都には、知事の権限に属する事務を分掌させるため、総務局、財務局、主税局、生活文化局、都市計画局、環境保全局、福祉局、衛生局、労働経済局、住宅局、建設局、港湾局及び清掃局が置かれ、財務局は、予算その他の財務に関すること及び議会に関することをその分掌事務としている。また、東京都組織規程(昭和二七年規則第一六四号)によれば、財務局は、経理部、主計部、管財部、用地部、庁舎管理部、営繕部からなり、主計部は、議案課、財政課、予算第一課、予算第二課、予算第三課、公債課からなり、議案課は、都議会及び議会局に関すること、都議会議員及び都議会議員待遇者に関すること、部内他課に属しないことを分掌するものとされており、財務に属する予算、管財等の個別的事務はそれぞれ議案課以外の課の分掌事務とされている。
また、東京都予算事務規則(昭和四〇年規則第八三号)五条によれば、歳入歳出予算科目は、款、項及び目、節に区分して編成し、それに従って執行すべきものとされている。そして、右款、項及び目、節の区分は毎会計年度歳入歳出予算の定めるところによるとされているので、平成六年度における予算科目の詳細は明らかではない。もっとも、地方自治法施行規則一五条は、右予算科目の区分の例を示し、歳出予算に係る款、項及び目の区分についてその大綱を示し、歳出の性質の相違に基づく節の区分は同規則一五条の別記のとおり定めなければならないものとしているから、ほぼ、同別記に従った予算科目の区分がされているものと推認される(地方自治法施行令一四七条参照)。そして、東京都における歳出予算の款、項及び目は、事業の目的に従い、組織との関連を考慮して、事業内容が明らかになるよう定められなければならないものとされており(東京都予算事務規則五条四項)、節における「需要費」とは消耗品費、燃料費、食料費、印刷製本費、光熱水費、修繕料、賄材料費、飼料費及び医療材料費からなるものである。また、対外的交渉、儀礼等に関して必要とされる交際費については、通常かかる対外的行為は地方公共団体の知事について予定されているものであるところ、地方公共団体を代表する知事は関係者との間でさまざまな交際事務を行うことが予定され、知事自身が支出権者であることから、知事の責任において個別的、具体的な事例に応じて諸事情を勘案の上、都道府県の利益を考慮して、政策的、合理的な裁量判断によって、支出の要否、金額を決定すべきものであり、非公開を予定しているものも多いと想定されるといった特殊性を有することから、節においてこれを明記すべきものとされている(地方自治法施行規則一五条の別記)。
本件各会議に係る支出が属する財務管理費(目)の内容は必ずしも明らかではないが、予算作成、提出、財務事項に関する費用のうち、議案課の所掌事務に照らせば、予算案あるいは議案の内容にわたる事務事業ではなく、これらを議会へ提出するための窓口となる業務に要する費用と解され、また、一般需要費のうち食料費に相当するものと解される。したがって、議案課の分掌事務、本件支出にかかる予算科目からは、本件各会議は一般的な議会との連絡調整のための支出と解される。
(2) 本件各会議においては、相手方に対していずれも五〇〇〇円から二万円までの範囲内での贈呈品が渡されている。
(3) 本件各会議の時期、出席者数は、別紙二に記載のとおりであるが(各会議は別紙二の表記によることとする。)、五・四・一会議(三号議案課文書関係)及び六・四・一会議(二号議案課文書関係)は、それぞれ平成五年及び平成六年の第一回定例議会の終了を契機として、その直後に相手方を二名として開催されたものであり、平成六年四月四日から同月一四日までに開催された六回の会議(四ないし六号議案課文書関係)は、平成六年第一回定例議会の終了を契機として、これに接近した日に相手方を三人から一七人までの人数として合計五七名に対して六回に分けて開催されたものであり、六・六・二四会議及び六・六・二七会議(八一及び八三号議案課文書関係)は、平成六年第二回定例議会の議案審議を控えた時期に相手方五名及び四名として開催されたものである。そして、七・三・九会議(五〇一号議案課文書関係)は、被告の主張によれば、平成七年第一回定例会における補正予算案の審議終了日に相手方を二名として開催されたものである。
なお、債権者に(開催場所)の請書には、契約の目的として「料理等の購入について」、履行場所として「懇親会会場」と記載されているから、本件各会議は社会通念上の「懇親会」と解される外形を有するものであったと認められる。
(4) 起案文書の形式はいずれの場合も同一であり、五〇一号議案課文書以外のものの開示された記載からは、会議の目的としては、議会における審議の経過(八一及び八三号議案課文書においては提出予定案件)が記載されていることが認められる。なお、会議開催についての支出を求める起案文書であれば、開催の必要性に関する事情のみを記載すれば足りるものであり、開示された前後の文脈と対照しても、非開示部分にことさら内密の事情が記載されているとは推認できない。また、被告の主張によれば、会議の開催目的の一部を非開示とした理由は、記載内容が秘密性を有するからではなく、右記載から相手方出席者が判明することにあるとされている。
(5) 件名の会議名の記載はいずれの場合も、約四字分が非開示とされている。
相手方については、三号議案課文書及び二号議案課文書においては、約二字相当分の非開示部分の後に「側 2名」と記載され、その下に八字ないし九字相当分の非開示部分があり、四ないし六号議案課文書においては、約二字分の非開示部分の後に「側」と人数の記載がされ、その下に一〇字ないし一七字相当分の非開示部分があり、八一及び八三号議案課文書においては約九字分の非開示部分の後に「側」と人数の記載がされ、その下に一八字相当の非開示部分があり、五〇一号議案課文書においては、約二ないし三字分の非開示部分の後に「側 2名」と記載され、その下に八字ないし九字相当分の非開示部分がある。
都側については、「都 側」として人数が記載され、その下に約七字相当分、多いもので約一五字相当分の非開示部分がある。
(二) 被告は、本件各会議は、別紙二記載の状況下において開催されたものであって、その内容のみならず、開催した事実自体を内密にする必要がある会議であった旨の主張をする。
確かに、証拠(乙一〇号証の一ないし五、一一号証の一ないし五、一二号証、一三号証の一、二、一四号証の一ないし四、一五号証の一、二及び三の一、二、乙一六号証の一ないし三、一七号証の一ないし三、一八号証の一ないし三)によれば、本件各会議が開催された時期における都政の重要課題をめぐる都議会各派の対応等は、別紙二の一ないし五の各2記載のとおりであったことが認められる。しかしながら、別紙二記載の被告主張事実については、甲四号証から都知事の出席の事実をうかがうことができるが、真実都知事の出席があったとすれば、都知事が出席したとされる会議の都側出席者の記載に都知事の記載があると推定されるところ、被告はこの点を立証せず(開示要件がないとしても、被告が会議日を特定して知事の出席を主張する以上、本件議案課文書のうち当該部分を証拠として引用することは可能である。)、被告が主張するように当時の懸案事項について特定の議員と内容にわたる協議を行ったものとすれば、当該事項に関する担当局部課の職員の出席があったと推測されるのに、被告はこの点の主張をせず、また、六・六・二四会議及び六・六・二七会議は都営住宅条例及び環境基本条例について事務局レベルで議会側との意見交換をしたと主張するが、都側の出席者は財務局幹部であると主張され担当局部課の幹部の出席は主張されておらず、また、都の懸案事項に関して特定の議員との懇談が必要な場合はあるにしても、当時の重要案件について特定の議員の意思決定に影響を及ぼすことを目的として贈呈品を渡すことは考え難いのものである上、被告は被告主張事実の範囲内でも立証をしないのであるから(重要案件についての協議を目的としていたというのであれば、少なくとも都側の出席者を明らかにして、会議の概括的経過を担当者の陳述書、証言等で立証することは可能であったというべきである。)、すでに提出された証拠を総合しても、本件各会議の性質が被告主張のようなものであったと認めるには足りないのである。
そして、本件議案課文書から認められる右(一)記載の各事実によれば、議案課の所掌事務に照らして、本件各会議の相手方は都議会議員であり(この点は当事者間に争いがない。)、また、議案課の分掌事務がいわば執行部と議会との窓口役にあることからすれば、他の局部課の所掌事務に関するものであっても、議会側との打合せのための会議は議案課が企画することはあり得ることである。しかし、議案課自身は別紙二に記載された諸問題に関する事務事業を分掌するものではないこと、被告主張に対する疑問として指摘した事情に加えて、会議の開催時期、相手方の人数、回数、贈呈品の交付、その時期及び予算科目によれば、本件各会議は、個別的具体的な都の事業について特定の議員と折衝し、意見の交換をするために開催された会議と解するよりは、むしろ、都議会定例会の閉会又は補正予算案の成立を機に、執行部側の議会への窓口にあたり両者の調整をも職務とする議案課として、議事進行等に関する一般的意見交換をして議会側幹部との懇親を深め今後の意思疎通に資するようにとの趣旨に基づくものであって、議長、副議長あるいはその他の議会関係者に対して、審議に関する慰労、謝意等を表明するための儀礼的性格も含むものであったと推認することができるのであって、懇親の場においては当時の都の懸案事項について話が及ぶことはあったとしても内密の会議を目的としたものと解することはできず、また、都知事の出席があったとしても相手方の役職、地位への表敬の趣旨に出るものと推認されるのである。なお、八一及び八三号議案課文書に係る会議は、都議会審議の前であるが、開催時期を除き、他の会議と区別すべき事情は見当たらない。
なお、料理、贈呈品の単価は相手方が少人数の場合程高額となっているが、議案課が都議会議員及び同待遇者に関することを所掌事務としていること及び本件各会議の右性格に照らせば、右金額の相違は都議会内において了解されている序列に従ったものであると推認される(会議に出席した相手方にとっては、既に開示された情報からも右待遇差をおおよそ知ることができるから、仮に待遇差について相手方に不満、不快の感情が生ずるようであれば、これによって議会側との調整事務という議案課が事務事業に支障が生ずることになるから、これを理由に、料金及び単価に関する情報も非開示となっていたものと推認される。)。
2 二号個人情報該当性について
被告は本件議案課文書に係る非開示部分を開示したときは、相手方が特定識別されることになるから、個人情報に該当すると主張する。たしかに、相手方にとっては、議案課の起案に係る招宴への出席、そこでの接遇の内容、程度を含めて個人に関する情報ということができる。
ところで、右(一)(4)(5)に認定した事実によれば、会議名及び会議の目的の欄には定型的表記又は都議会の審議経過等の記載がされるにすぎないと推認されるところ、本件各会議が儀礼的な懇親であるとすれば、右のような記載からは、議会側のしかるべき地位にある者が相手であることを推認することができる。しかし、被告主張のような特別な目的を持った個別的事項に関する協議であるとすると、開催目的としての審議経過等から当然に懇親の相手方が特定識別されると解することは困難である。そして、相手方の部分に個人名の記載がないことは被告が自認するところであるところ、相手方出席者に関する非開示部分に相当する字数によれば、相手方に関する非開示部分には、まず「議会」側等の定型的な記載がされ、人数に続く相手方の特定方法としては、相手方の一名あるいは相手方の内の上席者の肩書に加えて他の出席者の人数が記載され、都側の出席者の非開示部分にも主要又は上席者の肩書に他の出席者の人数が記載されているものと想像され、右に推認した本件各会議の目的に照らせば、少人数の会議においては、「議長」「副議長」といった記載が、その他の会議においては、政党又は議会会派の名称及びそこでの役職によって代表的な者を特定し、その余の出席者の人数を記載したのではないかとも想像される。しかし、「議会」側との記載であれば、本件各会議が議案課の起案に係るものであることから特に非開示とする事情は見当たらないし、相手方及び都側の出席者としてそれぞれの代表的な者とその余の出席者の人数を記載したものとすれば、各出席者の総数は開示されているのであるから、人数に関する部分を非開示とする理由はない(少なくとも、本件訴訟における証拠として引用することはできる。)はずであるとの疑問を払拭することはできない。そして、この点について、被告は議案課起案文書における一般的記載方法についてすら立証していないのであるから、出席者の特定方法としていかなる記載がされているのかについては、これを認めるに足りる証拠はないというほかなく、結局、本件全証拠によっても、非開示部分を開示することによって相手方を特定識別することができるとの事実については立証がないというべきである。
また、被告は都の役職員及び都議会議員の日程の調査あるいは債権者(開催場所)への問い合わせや取材によって相手方が特定識別される可能性があることを理由に、債権者(開催場所、贈呈品納入者)の記載が非開示事由に該当すると主張する。しかし、飲食の提供を業とし、日々多数の顧客に接している債権者又はその従業員が知事等の著名人以外の者を特定認識して記憶しているとは限らないのである。さらに、「特定の個人が識別され得る」場合とは、一般人を基準として、既に公開された情報あるいは新聞等から通常入手することができる他の関連情報と照合することによって特定識別が可能となる場合を含むものであるが、特別な調査をした場合に特定識別が可能であるとしても、それはかかる調査の結果であって、情報において特定の個人が識別されるものということはできないのである。被告の主張が、調査によって特定識別が可能となる場合には、その調査の端緒となり得ること自体が条例九条二号に規定する特定識別可能性であるとするものとすれば、条例の文言に照らしても、この見解を採用することはできない。
また、仮に、相手方が特定識別され得るとしても、会議の目的の記載が都議会審議に関する一般的経過に関する記述であると推認されること、都側の出席者も主要又は上席の役職員の肩書に出席者の人数を記載した程度の簡単な記述であると推認されることからすれば、これらの記述から推定可能な相手方としては、議長、副議長、議会会派役員等に限定されるのであって、前記認定に係る本件各会議の性質に照らせば、そこへの出席もそれぞれの公職に対応した慣行的あるいは儀礼的な接遇への対応として、ことさら公にする必要がないものであるとはいえても、本件各会議への出席が出席者個人のプライバシーを侵害するものと推認することはできないのである。たしかに、本件各会議の内容が被告主張のとおりであるとすれば、本件各会議への出席は特別職(地方公務員法三条三項一号)としての職務内容に関する情報であるとともに、さまざまな利害関係のパイプ役という立場からも公開を望まない個人情報の面を有する場合が想定できないものではない。しかし、本件各会議の性質について被告主張事実の立証がなく、むしろ前記のような推認が可能なことは既に認定したとおりである。
よって、本件議案課文書の非開示部分をもって二号個人情報に該当するということはできない。
なお、本件議案課文書のうち支払金口座振替依頼書に記載された振込口座の記載は債権者の個人情報に該当する場合が想定されるが、被告は本件非開示処分の理由としてこのような主張をしていない。
3 七号意思形成情報該当性について
被告は、本件議案課文書中の会議等の名称及び会議の目的を開示すると、関係者や都民に様々な憶測等を生じさせ、無用の誤解を与え、混乱を惹起し、当該会議の内容となった都政の重要課題に関する事務事業に係る意思形成に支障が生ずるとして、右情報が九条七号に該当する旨主張する。しかしながら、被告の主張は、極めて抽象的であって、具体的にどのような憶測が生じ、誤解を与え、混乱が生じることになるのかが必ずしも明らかでないだけでなく、証拠(乙三号証の一ないし八)によれば、本件議案課文書のいずれにも当該会議の出席者の発言等の具体的内容についての記載があると認めることはできないから、会議の具体的内容が記録されているわけではない本件議案課文書が開示されたからといって、被告主張のような事態を招来し、意思形成に支障が生ずることになるとは通常考えにくいというべきである。そして、前記認定に係る本件各会議の性質に照らせば、会議等の名称としては定型的な記載が、開催の目的には都議会審議あるいはその経過に関する一般的な記述があるものと推認されるにすぎず、これを覆すに足りる立証はないのであるから、会議の名称又は開催の目的を開示したからといって関係行政機関、利害関係者又は都民に憶測や無用な誤解を与え、混乱を惹起するといったおそれを認めることはできず、また、本件各会議における内々の情報交換なる事実も認めることはできない。したがって、会議の名称又は開催の目的の記述が七号意思形成情報に該当する旨の被告主張を採用することはできない。
また、開催場所及び債権者名についても、被告は、これを端緒とする調査によって相手方が特定識別されるときは、相手方との信頼関係を損ない会議の対象となった事務事業あるいは同種の事務事業の遂行に支障が生ずると主張するが、この主張は本件各会議が内密の情報交換であることを前提とするものであるところ、右前提となる事実を認めるに足りる証拠がないことは既に説示したとおりである。
4 八号事務事業情報該当性について
被告は、本件議案課文書中の会議等の名称及び会議の目的を開示すると、本件各会議における内々の情報交換の内容が推測されることになり、また、債権者名を開示すると、債権者に対する問合せ等によって出席した都議会議員が識別される可能性を生じさせることになり、出席した都議会議員など関係当事者の信頼関係を損ない、当該会議の内容となった都政の重要課題に関する事務事業の執行等に支障が生ずるとして、右各情報が九条八号に該当する旨主張する。しかしながら、本件各会議が通常その公開を予定せず、非公開の儀礼等に準ずるものであること又は会議の内容がその性質上非公開を予定していることについてはもとより、本件非開示部分が右非開示とすべき情報を含むものであることについては立証がない。本件議案課文書のいずれにも当該会議の出席者の発言等の具体的内容についての記載があると認めることができないことは前述のとおりであって、当該会議において内々の情報交換がされたとしても、その内容が推測されるということはできないのである。したがって、被告の右主張も採用することはできない。
5 四号公安秩序情報該当性について
被告は、開催場所及び債権者名について、内密の会議の場合には開催場所が限定されるだけでなく、反復継続して利用することが多いから、都知事等の警護対象者が出席する場合にはその警護体制に支障を生ずるとして、右情報は条例九条四号に該当する旨主張する。しかしながら、本件各会議が内密性を有するものでないことは前述のとおりであり、また、内密性を有することから直ちに開催場所が限定されることになるともいえないし、過去に行われた会議の開催場所が判明したからといって、将来行われる会議がいつ、どこで開催されるのかが直ちに推知できるわけではないのであるから、本件議案課文書中の開催場所及び債権者名の記載を開示したとしても、警護上の支障が生ずるということはできないし、将来の警護等に特段の支障をきたすと考えることも困難であって、被告の右主張を採用することはできない。
6 以上から、本件議案課文書中の債権者の印影を除く本件非開示情報が、条例に規定する非開示情報に該当するということはできないから、その開示を拒否することはできないといわざるを得ず、本件第一決定は右の限度で取り消すべきである。
三 本件超過勤務等命令簿について
1 被告は、本件超過勤務等命令簿に記載されている職員氏名及び従事職員確認印は、個人が直接識別される情報であり、また、勤務内容及び係長確認印は、既に開示されている情報等を組み合せることにより、あるいは報道課に問合せ等をすることにより、個人が識別され得る情報であるから、いずれも条例九条二号に該当する旨主張する。
2 たしかに、超過勤務等命令簿は超過勤務手当の算定の根拠となる文書であり、右手当の額、多寡は個人の所得に関するものとして典型的な個人に関する情報というべきである。
しかし、本件では右手当の額、多寡に関する部分(単価、支給額)の開示は請求されていないのである。そして、乙二〇号証によれば、報道課に所属する職員は課長以下一二名であり、その氏名及び職は東京都職員名簿に記載されているところであり、これをプライバシーに属する情報ということはできない。また、乙一九号証によれば、超過勤務等命令簿の勤務内容欄には、できるだけ具体的に超過勤務の内容を記入すべきものとして、記入例としては「○○事務に関する○○資料作成」といった記載が掲げられているところであり、この欄の余白の範囲に照らしても、右以上の記載は困難と解される。また、同号証によれば、超過勤務は原則として命令権者から個々の職員にその都度命じられるものであり、報道課においては報道課長によって超過勤務が命じられ、その結果が超過勤務等命令簿に記載されることになるのである。
そうすると、本件超過勤務等命令簿について個人名を開示したとしても、これによって新たに判明する事実は、当該個人が所属する勤務部署において超過勤務命令権者の命令に従って既に開示されている超過勤務時間にわたって職務を遂行したという事実に止まるのである。そして、わが国の現状において超過勤務に従事することは給与生活者あるいは公務員として稀なことではなく、その当否は別にして、むしろ日常的な事態ということができるのである。そうすると、超過勤務の状況から特定個人の勤務態度あるいは個人に固有な情報が推認される等の特段の事情がある場合を除き、個人名を開示することによって新たに判明する事実は当該個人が所属部署において勤務しているという以上のものではないというべきである。(出勤簿の欠勤の記載は個人の健康状態を示す情報ともなるが、超過勤務はかかる情報を含むものでもない。)。そして、乙六号証の一ないし一一によれば、報道課における平成六年八月中における超過勤務の状態は、四捨五入した月間計において、八時間、一五時間及び一九時間が各一名、二〇時間台の者が二名、三〇時間台の者が六名となっているところ、報道課の所属職員の構成に照らして、右時間差が個人の職に関する情報以上に個人に関する情報を示すものと認めるに足りず、被告主張によっても、右特段の事情の存在をうかがうことはできない。
なお、勤務内容の記載については、その記載内容が公開を適当としない場合もあり得るところであるが、これは二号個人情報該当性の問題ではなく、また、被告が勤務内容の欄を開示しない理由は、その記載内容の公開の適否ではなく、個人の特定資料となることであるとしているから、右記載も当該個人の職の内容を示すものにすぎないと考えられるのであって、これによって当該個人が特定識別することが可能となったとしても、当該個人の氏名及び職に関する情報以上の意味を有するものではなく、社会通念上個人のプライバシーを侵害するおそれはないと認められるものというべきである。
また、超過勤務等命令薄からは、命令権者が超過勤務を命じたとの事実が認められるのであって、この事実は、場合によっては、命令権者の職員管理、勤務時間管理に関する情報ということができるが、これらの情報も基本的には職務情報と解すべきものである上、被告は、これらの事情を非開示の理由として主張するものではない。
被告は、従事職員確認印及び係長確認印については、これにより職員氏名が特定され得るから、条例九条二号に該当すると主張するが、右のとおり、職員氏名及び勤務内容を非開示とする理由は認められないから、従事職員確認印及び係長確認印を非開示とする理由もないことになる。
3 以上から、本件第二決定のうち、職員氏名、勤務内容、従事職員確認印、係長確認印を非開示とした部分は、違法であって、これを取り消すべきである。
四 よって、原告の請求はいずれも理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 富越和厚 竹野下喜彦 岡田幸人)
(別紙一) 本件議案課文書
一 五財主議第三号文書
平成五年四月一日に合計一四名(都側一二名、都議会議員二名)の会議(以下「五・四・一会議」という。)を開催し、その経費として八一万二八六六円を支出したことに関する起案文書、請書、支出命令書、請求書及び支払金口座振替依頼書(合計五通、乙三号証の一)
二 六財主議第二号文書
平成六年四月一日に合計一〇名(都側八名、都議会議員二名)の会議(以下「六・四・一会議」という。)を開催し、その経費として六〇万五八四四円を支出したことに関する起案文書、請書、支出命令書、請求書及び支払金口座振替依頼書(合計五通、乙三号証の二)
三 六財主議第四号文書
平成六年四月四日に合計三一名(都側一四名、都議会議員一七名)の会議(以下「六・四・四会議」という。)を開催し、その経費として一〇七万〇七二〇円を支出したこと及び同月五日に合計一五名(都側一二名、都議会議員三名)の会議(以下「六・四・五会議」という。)を開催し、その経費として五〇万六九一八円の経費を支出したことに関する起案文書、請書四通、支出命令書四通、請求書四通、支払金口座振替依頼書二通及び領収書二通(合計一七通、乙三号証の三)
四 六財主議第五号文書
平成六年四月七日に合計二一名(都側一四名、都議会議員七名)の会議(以下「六・四・七会議」という。)を開催し、その経費として六四万八二〇〇円の経費を支出したこと及び同月一一日に合計二八名(都側一四名、都議会議員一四名)の会議(以下「六・四・一一会議」という。)を開催し、その経費として九二万四二一二円の経費を支出したことに関する起案文書、請書四通、支出命令書四通、請求書四通、支払金口座振替依頼書二通及び領収書二通(合計一七通、乙三号証の四)
五 六財主議第六号文書
平成六年四月八日に合計二六名(都側一三名、都議会議員一三名)の会議(以下「六・四・八会議」という。)を開催し、その経費として九一万七三一二円の経費を支出したこと及び同月一四日に合計一〇名(都側七名、都議会議員三名)の会議(以下「六・四・一四会議」という。)を開催し、その経費として四五万九三七八円の経費を支出したことに関する起案文書、請書四通、支出命令書四通、請求書四通、支払金口座振替依頼書二通及び領収書二通(合計一七通、乙三号証の五)
六 六財主議第八一号文書
平成六年六月二四日に合計一三名(都側八名、都議会議員五名)の会議(以下「六・六・二四会議」という。)を開催し、その経費として五二万四七四〇円の経費を支出したことに関する起案文書、請書二通、支出命令書二通、請求書二通、支払金口座振替依頼書及び領収書(合計九通、乙三号証の六)
七 六財主議第八三号文書
平成六年六月二七日に合計一四名(都側一〇名、都議会議員四名)の会議(以下「六・六・二七会議」という。)を開催し、その経費として五三万七三七〇円の経費を支出したことに関する起案文書、請書二通、支出命令書二通、請求書二通、支払金口座振替依頼書及び領収書(合計九通、乙三号証の七)
八 六財主議第五〇一号文書
平成七年三月九日に合計一六名(都側一四名、都議会議員二名)の会議(以下「七・三・九会議」という。)を開催し、その経費として五七万五三〇四円の経費を支出したことに関する起案文書、請書二通、支出命令書二通、請求書二通、支払金口座振替依頼書及び領収書(合計九通、乙三号証の八)
(別紙二) 本件各会議の開催状況等
一 五・四・一会議(三号議案課文書関係)について
1 出席者は、相手方二名、都側一二名である。都側の出席者は、当時の鈴木俊一都知事(以下「鈴木知事」という。)以下の都の幹部である。
2 平成五年三月一五日から三日間にわたって行われた平成五年第一回都議会定例会の予算特別委員会における最大の焦点は、臨海副都心開発と世界都市博覧会の開催の是非の問題であり、同委員会において、促進を求める自由民主党及び民社党、見直しを迫る社会党・市民ネットワーク及び都議会公明党、中止を主張する共産党が激しく対立している中、鈴木知事は、世界都市博覧会については、規模を縮小して開催する方向を示唆し、臨海副都心開発については、着実に推進することを強調し、臨海副都心への進出予定企業との契約条件に関しては、これを変更する考えはないと明確に否定したものの、その後あまり日の経たないうちに、これの見直しを図ることとしたため、議会側からの反発があった。
3 右会議は、右のような状況下で開催されたものであるから、必然的に臨海副都心開発と世界都市博覧会の問題を中心に都が抱えている重要課題についての意見交換を内容とするものであった。
二 六・四・一会議(二号議案課文書関係)について
1 出席者は、相手方二名、都側八名である。都側の出席者は、鈴木知事以下の都の幹部である。
2 平成六年三月一五日から三日間にわたって行われた平成六年第一回都議会定例会の予算特別委員会においては、平成五年における予算特別委員会と同様に臨海副都心開発と世界都市博覧会が問題とされたが、これに加え、水道、下水道及び交通の三地方公営企業がその料金の値上げ改定の条例案を提案したので、これに関しても波瀾含みの論議がされた。
3 右会議は、右のような状況下において開催されたものであるから、その内容は、必然的に臨海副都心開発や世界都市博覧会の問題に加え、右三地方公営企業の料金値上げ問題を中心に都が抱えている重要課題についての意見交換を内容とするものであった。
三 六・四・四会議、六・四・五会議(以上四号議案課文書関係)、六・四・七会議、六・四・一一会議(以上五号議案課文書関係)、六・四・八会議、六・四・一四会議(以上六号議案課文書関係)について
1 右各会議は、平成六年第一回都議会定例会の閉会後の右各開催日に、都議会各会派と執行部との間で開催されたものである。出席者は、六・四・四会議につき相手方一七名、都側一四名、六・四・五会議につき相手方三名、都側一二名、六・四・七会議につき相手方七名、都側一四名、六・四・一一会議につき相手方一四名、都側一四名、六・四・八会議につき相手方一三名、都側一三名、六・四・一四会議につき相手方三名、都側七名である。都側の出席者は、鈴木知事以下の都の幹部である。
2 平成六年二月二三日から同年三月三〇日までの間にわたって行われた平成六年第一回都議会定例会では、特に、一般会計が二年連続して前年度を下回り、また、都税が三年連続して落ち込むという中で、水道、下水道及び交通の三公営企業の料金値上げ改定が提案され、都議会各派から様々な意見が相次ぎ、都営交通については輸送サービスや運賃制度の一層の改善に努めることを求めた付帯決議を、水道事業及び下水道事業については減免措置と使用料値上げ改定の一部の実施時期の延長を求める付帯決議をそれぞれつけることによって、共産党を除く各党の調整が成立し、ようやく各料金値上げ案が成立した。しかし、右各付帯決議の内容が極めて政治的色彩を帯びていたことから、都側としては、公営企業管理者を含め、その対応に苦慮し、多くの課題を抱えることとなった。
3 右各会議は、右のような状況下において開催されたものであって、必然的に前記公共料金の値上げ問題、特に付帯決議の具体的実施を含む問題を中心に都が抱えている重要課題についての意見交換を内容とするものであった。
四 六・六・二四会議(八一号議案課文書関係)及び六・六・二七会議(八三号議案課文書関係)について
1 右各会議は都議会各会派との意見調整を図るためのものであった。出席者は、六・六・二四会議につき相手方五名、都側八名、六・六・二七会議につき相手方四名、都側一〇名である。都側の出席者は当時の都財務局の幹部である。
2 都は、平成七年一月から都営住宅に応能応益的家賃制度を導入するための都営住宅条例の改正と環境行政全般を包括的に明文化するための環境基本条例の制定等の重要議案を平成六年第二回都議会定例会に提案するため、条例事項の担当副知事が都議会各会派を回り、予め重要議案の説明を行ったところ、共産党を除く各会派は、都営住宅条例の改正については概ね賛成し、環境基本条例の制定については種々の意見はあるものの制定自体には大筋で賛成したが、共産党はいずれについても反対した。
3 右各会議は、右のような状況下において開催されたものであるから、自ずと都営住宅条例の改正と環境基本条例の制定等を中心とした都が抱えている重要課題についての意見交換を内容とするものであった。
五 七・三・九会議(五〇一号議案課文書関係)について
1 出席者は、相手方二名、都側一四名である。都側出席者は、鈴木知事以下の都の幹部である。
2 平成七年二月七日から同年三月九日までの間にわたって行われた平成七年第一回都議会定例会での平成六年度補正予算案の審議においては、東京協和信用組合及び安全信用組合に対する信用組合特別対策として、社団法人東京都信用組合協会に対する貸付金三〇〇億円の計上案件が大きな焦点となり、都議会予算特別委員会の質疑の半分を占めるほど重要な問題として議論がされ、都議会の各会派の思惑が微妙に交錯し、都議会の動向は予断を許さない状況にあった。そして、同年三月九日に、右三〇〇億円を平成六年度補正予算案から削除して都財政調整基金に積み立てるという形で、平成六年度補正予算案が修正議決される結果となった。しかし、右修正内容に関しても、都議会各会派によって受け止め方が微妙に異なるものであったことから、都議会側の意向を把握することが必要となった。
3 右会議は、右のような状況下において開催されたものであるから、必然的に右三〇〇億円の計上案件を中心とした都が抱えている重要課題についての意見交換を内容とするものであった。